1. CES 2024の概要
2024年1月9日から12日まで、アメリカ・ラスベガスで開催されたCES(Consumer Electronics Show)は、ITと電子製品の世界最大の展示会です。57回目を迎えたこのイベントでは、AI(人工知能)、モビリティ、デジタルヘルスケア、フードテクノロジーなどが主要キーワードとして注目されました。
1.1. CESとは
CESは毎年1月に開催され、その年の技術トレンドを先取りする重要な場です。世界中の有名企業が集まり、技術革新を競い合います。「CESに参加した企業」というステータスは、企業のイメージに大きな影響を与えると言われています。
1.2. 今年のテーマ
CES 2024のテーマは「All Together, All On」で、全ての企業と産業が技術を通じて人類の問題を解決することが目標です。特に、AI技術は重要な焦点となっています。
2. AIの日常への影響
AIの進化は私たちの日常生活にも大きな変化をもたらしています。
2.1. AIによる生活の変革の例
- 顔認識プログラムによる健康チェック
- AIを利用したパーソナルケア製品の推薦
- ドローンを使った通勤
- AIが支援する効率的な職場環境
- VRヘッドセットを使ったリラクゼーションとエンターテイメント
2.2. AIと未来
AIの応用は、私たちの生活をより便利で効率的にするだけでなく、様々な産業に革命をもたらしています。CES 2024での「AI」の選択は、その重要性を物語っています。
AIの中心的役割
CTA(Consumer Technology Association)は、AIが問題解決のプロセスを新しい次元に進化させ、ユーザーエクスペリエンスを革新するとして、AIの重要性を強調しました。さらに、AIが自動車、コンピューター、ヘルスケアなど多くの産業で活用されていることも言及されています。
重要な発言
CTAの会長であるゲーリー・シャピロは、現在のAIはまだ初期段階にあり、「生成型AI」と呼ばれる新しい技術が、CESで最も重要な課題であると述べました。また、AIと生成型AIの技術はCESのあちこちで見ることができるとも言及されています。
注目の基調講演
インテルのCEOであるパット・ゲルシンガーは、基調講演で「どこにもAI」というテーマで発表しました。また、クアルコムのCEO、クリスティアーノ・アモンも「オンデバイスAI」をテーマに講演を行いました。
AIに関するパッドキャスト
CTAはAIに関するパッドキャストを事前に公開しました。これには、文を生成するチャットGPTや絵を描くダリ(DALL-E)などの生成型AIが取り上げられています。
その他の技術トレンド
CES 2024では、5G、IoT、ロボティクス、エンターテインメントとコンテンツ、自動車、ブロックチェーン、ヘルスケアとウェルネス、ホームエンターテインメント、ARとVR、Web3.0、メタバース、ゲーミングなど、多様な技術が注目されました。特に自動車技術では、都市型航空モビリティ(UAM)が重要な技術として選ばれました。
3. CES 2024における主要な技術トレンド
今年のCESでは、業界の拡大が注目されました。特に基調講演では、この変化が顕著に見られました。
CESの歴史で初めて、化粧品企業の代表が基調講演者に選ばれました。その主役は、ロレアルのCEO、ニコラ・イエロニムスです。彼は1月9日に基調講演を行い、ロレアルは過去10年間CESに参加し、影響力を高めてきました。
ロレアルは、今回のCESで、オフラインとデジタル、仮想現実を融合したビューティーテクノロジーを紹介しました。これには、拡張現実を活用したメイク体験や、持続可能な美容技術の影響などが含まれます。例えば、ロケット技術を利用した節水シャワーヘッドや、AIを基にしたスキンケア指導のモバイルアプリケーションなどが挙げられます。
基調講演は、CESのメインイベントであり、各産業を代表する企業のリーダーが技術ビジョンを提示する重要な機会です。イエロニムスCEOは、「美は時代を超えた追求であり、技術は美しさに楽しみを加え、新しい可能性を開く」と述べ、「ロレアルは、誰もが美容トレンドから取り残されることのない未来を目指している」と強調しました。
アメリカの大手小売企業ウォルマートも基調講演を行います。これは2021年に初めてCESで基調講演を行って以来、2回目のことです。ウォルマートのCEO、ダグ・マクミロンは、デジタル変革と人間と技術を中心とした流通革新のビジョンを1月9日の基調講演で提示します。マクミロンCEOは、小売業にAIを適用する方法や、ロボティクスと機械学習が小売業全体に与える影響について説明する予定です。
3.1. 「人間に役立つ」技術としてのAI
AIの重要性とその進化
CES 2024では、AIが最も重要な技術として位置づけられています。CTA(Consumer Technology Association)はこのため、新たにAIカテゴリーのイノベーション賞を設けました。2022年に登場した生成型AI「チャットGPT」の出現により、AI産業は急速に発展し、様々な産業での応用が進んでいます。ただし、現在のAI技術はまだ初期段階にあります。科学専門メディア「Futurism」によると、未来学者レイ・カーツワイルはAIが人間レベルの知能に到達する時期を2029年、特異点(Singularity)に到達する時期を2045年と予測しています。
「人間のセキュリティ」を主要テーマとする理由
CES 2024で「人間のセキュリティ(HUMAN SECURITY)」が主要テーマとして設定されたのも、AIと関連しています。人間のセキュリティとは、病気や犯罪などの様々な問題から人間を守ることを意味します。CTAは、技術が全人類に影響を及ぼす可能性があるため、その変化は肯定的であるべきだと強調しています。
AIのイノベーション賞とその応用
この年の最高イノベーション賞を受賞したAI技術には、このような傾向が見られます。ドイツの自動車部品メーカー、ボッシュが「AIベースのセキュリティ検出システム」で賞を受賞しました。これは、キャンパス内の銃撃事件を防ぐためのセキュリティデバイスにAIベースの視覚認識システムを適用したもので、画像と音声認識を利用して銃器を検出する方法です。
人間の利便性を高めるAI技術
さらに、今年の展示会では人間の利便性を高めるAI技術に注目が集まると予想されています。AI技術を適用したリサイクル分別ソリューション、肥満遺伝子を検出するソリューション、小児患者向けのAIベースの食物アレルギー検出ソリューションなどが注目を集めています。
3.2. 自動車産業の進化:「モビリティ」の再発見
モビリティの重要性
毎年CESの重要なテーマとなっている「モビリティ」は、今年も主要な話題です。インテリジェント化やサービス化されたモビリティが特に注目されると見られています。
モビリティのキーポイント
具体的には、コネクテッドカー、車両ソフトウェア、都市型航空モビリティ(UAM)、環境に優しい電気自動車、自動運転技術などが含まれます。ホンダ、BMW、メルセデス・ベンツ、ヒュンダイ、キアなど多くのモビリティ企業が展示会に参加しています。アメリカのITメディア「TechCrunch」は「主要な自動車企業の参加によりCESが大きく発展した」と報じています。
電気自動車へのシフト
特に今年の展示では、自動運転よりも電気自動車に対する関心が高まると予想されています。実際にフォードは、フォルクスワーゲンと共同で設立した自動運転車開発企業「アルゴAI」への投資を停止し、これによりアルゴAIは結局倒産しました。
AI技術の活用
モビリティ分野でもAIベースの技術が目立ちます。カナダのIT企業ポントセンスは、運転者と乗客の安全を維持するAI検出ソリューションでイノベーション賞を受賞しました。この技術は、運転者の心拍数や呼吸などの健康データを収集し、飲酒や疲労度を判定します。また、マイクロソフトはクラウドサービス「Azure」と「チャットGPT」を利用した車載AIアシスタントを発表しました。
完成車メーカーの取り組み
メルセデス・ベンツはAIを基盤とした直感的な体験を提供する次世代インフォテインメントシステム「MBUXバーチャルアシスタント」を公開しました。ホンダは次世代の電気自動車(EV)を発表する予定です。また、ホンダの折りたたみ式電気スクーターやAUOの車載インタラクティブ透明スクリーンなどが最高イノベーション賞を受賞しました。
ソフトウェア中心の自動車技術
ヒュンダイは、ソフトウェア中心の自動車(SDV)技術を公開します。この技術では、スマートフォンのようにソフトウェアのアップデートを通じて最新の機能と最適な性能を維持することができます。
3.3. より個人化された医療技術
デジタルヘルスケアの進化
CES 2024では、デジタルヘルスケアと身体的・精神的な健康(ウェルネス)が重要な関心事となっています。今年の展示会では、個人に合わせたカスタマイズされたアクセスが可能なIT技術が主要トレンドとして登場しました。これには、睡眠追跡、血糖モニタリング、血圧管理などの技術が含まれます。CESではデジタルヘルスケアの専用エリアが設けられ、主要な技術として認められています。
ヘルスケア業界の変化
アメリカの製薬会社アボットの糖尿病管理部門の責任者ジョエル・ゴールドスミスは、「健康とウェルビーイングのカテゴリーはCESでますます重要になっている」と強調しました。彼は、医療機器と健康、ウェルネス、ライフスタイル機器の境界が狭まりつつあると述べました。アボットはCES 2022で、ヘルスケア企業としては初めて基調講演を行いました。
デジタルヘルスの定義
アメリカ食品医薬品局(FDA)によると、「デジタルヘルス」には、健康関連のIT、ウェアラブルデバイス、遠隔健康と遠隔医療、カスタマイズされた医療などが含まれます。
IT技術の医療への応用
コンピューティングプラットフォーム、接続性、ソフトウェア、センサーなどのITデバイスは、医師が病気を正確に診断し治療する能力を劇的に向上させるのに役立ちます。また、医療機器、診断、研究を通じて、個々の患者に対する治療法を改善することができます。CTAは、「これは1月の展示会が終わるまでに顕著に現れるトレンド」と説明しています。
ヘルスケアにおけるAI技術の活用
ヘルスケア分野でもAI技術が積極的に利用されています。心拍数、分単位の呼吸数、血圧、酸素飽和度を測定したり、不整脈を予測診断する多くの製品にAIが適用されています。
3.4. フードテクノロジーの発展:「オリジナルレシピ」
フードテクノロジーとは
フードテクノロジーは、「食品(Food)」と「技術(Technology)」の合成語で、食品の生産、流通、消費の全過程にITが組み込まれた産業を指します。具体的には、植物ベースの代替食品や食品プリントロボットを利用した製造工程の自動化、オンライン流通プラットフォーム、無人注文機、サービング・調理・配送ロボットなどが含まれます。
フードテクノロジーの重要性
フードテクノロジーは、一般的な飲食店での技術導入だけでなく、農業の技術化、世界人口のための食料システム再開発にも重要です。CTAは、「農業・食品に関する技術は、持続可能な生産、より良い栄養、廃棄物の削減、セキュリティの強化を目指す食品産業を構築するのに役立つ」と述べています。さらに、世界の気候変動、サプライチェーン問題、戦争などが食料供給に影響を与える際にも、食料供給源の確保にITが重要な役割を果たします。
フードテクノロジーの具体例
アメリカの「ライズ・ガーデンズ」は、最先端の屋内水耕栽培キットでイノベーション賞を受賞しました。この製品を使えば、誰でも簡単にトマト、ナス、キュウリなどを栽培できます。
4. まとめ
CES 2024では、AI技術が様々な産業に革命をもたらすことが明らかになりました。AIの進化は、私たちの生活をより豊かで効率的にし、未来を形作る重要な要素となっています。このイベントは、技術の進歩と人類の未来に対する期待を示しています。