予測が外れることを前提にする賢さとは?モーガン・ハウセルが語る“間違える勇気”
「自分の予測が外れたらどうするか、あらかじめ定義していますか?」
この問いは、人気ファイナンス作家のモーガン・ハウセル氏が提唱する、未来を予測する際に持つべき“責任ある姿勢”の本質を突いています。
特に経済や投資の世界では、的中すれば称賛され、外れれば沈黙する…そんな風潮が根強いものです。しかし、真に信頼できる予測とは「外れたときの姿勢」までを含めて語られるべきではないでしょうか。
「もし外れたらどうなるか?」を明言した経済学者アチュタンの例
2011年、経済学者のラクシュマン・アチュタン氏は米国経済のリセッション(景気後退)を予測しました。彼はその予測に明確な条件をつけました。「2012年上半期までにリセッションが起きなければ、私の予測は間違いだったことになる」と。
結果的にその期間中にリセッションは起こらず、彼は公の場で自らの誤りを認めました。これは予測の世界では極めて稀な行動です。多くの専門家が曖昧な表現を用いたり、結果が出た後で前提条件を修正したりして、責任を回避しがちだからです。
アチュタン氏のように、「予測が外れた場合の姿」をあらかじめ明確にすることは、予測の透明性を高め、信頼を築くための大切な行為だといえるでしょう。
予測が難しい3つの理由とは?
モーガン・ハウセル氏は、予測がそもそも難しい理由として以下の3点を挙げています。
- 対象が複雑すぎる
経済や市場の動きは、数えきれない要因が絡み合っています。単純なモデルでは到底把握できません。 - 責任の所在が曖昧
予測が外れても、誰が責任を負うかが明確でないことが多いため、間違いがうやむやになりがちです。 - 予測が曖昧すぎる
「年末にかけて上昇する可能性がある」など、結果に応じて意味を変えられるような予測は、当たったかどうかすら判断できません。
こうした背景があるからこそ、予測は慎重に、そして誠実に行う必要があります。
誤りを先に定義することが“責任ある予測”の鍵
心理学者キャロル・タヴリス氏は、人は自分の予測が外れたとき、それを正当化するために防衛機制を働かせる傾向があると指摘しています。
「自分が間違っていた」という事実を受け入れるのは、とても勇気がいることです。しかし、「外れたときの条件」をあらかじめ設定しておけば、個人のメンツや感情に振り回されずに事実を受け入れやすくなります。
たとえば、「もし2026年までに◯◯社の株価が〇〇%を超えなければ、自分の見立ては間違っていたと認めよう」といったように、あらかじめ“間違い”の定義を決めておくのです。
これにより、次のような効果が期待できます。
- 間違いを早く認めてリカバリーできる
- 不要な予測の乱発を防ぐ
- 他人の反論にも冷静に対応できる
「絶対に当てる」ではなく「外れても立ち直れる」が大事
ハウセル氏は「予測には4つの結果しかない」と述べています。
- 正しい理由で当たる(最も理想だが非常に稀)
- 間違った理由でたまたま当たる(見かけは成功だが再現性がない)
- 外れても曖昧な表現により認めない(よくある逃げ)
- 外れたことを認識し、修正して前進する(信頼される姿勢)
注目すべきは4番目です。たとえ外れても、自分の誤りを正直に認め、次に活かす姿勢がもっとも尊敬されるべき予測者の姿ではないでしょうか。
まとめ:未来を“決めつけず”、柔軟に対応できる思考を育てよう
未来を予測すること自体は悪いことではありません。しかし、予測が「当たるか外れるか」だけに注目してしまうと、大きなリスクに気づけなくなります。
だからこそ、予測をする際には「外れたらどうするか?」を常に意識することが重要です。これこそが、未来に対する責任ある向き合い方なのです。
投資やビジネス、そして人生においても──
完璧な予測は存在しません。重要なのは、“外れたときの行動”をあらかじめ決めておくこと。そこに、真の知性と勇気が宿るのです。