株式市場において、PER(株価収益率)というバリュエーション指標は、企業の現在の株価が適正かどうかを測る重要な手段です。しかし、**「PERが高い=売り」「PERが低い=買い」**という単純な公式は、実際には市場の動きを正確に予測するものではありません。
この記事では、PERが株式市場の短期的な動向をどの程度示唆するのか、そして投資家が陥りやすい誤解について、データと専門家の見解をもとに掘り下げていきます。
1. PER(株価収益率)とは?
PERは以下の式で算出されます:
PER = 株価 ÷ 1株当たりの純利益(EPS)
この指標は、株価がその企業の収益に対してどれだけ割高か、または割安かを示します。一般的に、PERが高いと「割高」とみなされ、低いと「割安」と解釈されることが多いです。
2. 高PERは本当に「売り」シグナルなのか?
現在、S&P 500指数のフォワードPERは22倍を超えています。確かに、過去の平均値と比べて高い水準ですが、この数値が直接的に「売り」を意味するわけではありません。
PERと将来の株価パフォーマンスの関係
シュワブのリサーチによると、PERと1年後の株価リターンの相関関係は-0.11と極めて弱いことがわかっています。つまり、PERの高さがその後の株価下落を予測するわけではなく、逆に上昇につながることもあります。
例として、PERが25倍だった年のデータを見てみると:
- ケース1: 次年度の株価が約30%下落。
- ケース2: 次年度の株価が約45%上昇。
このように、同じPERでも結果が大きく異なる場合があるのです。
3. PERが高いときでも株価が上がる理由
PERは**株価(P)と収益(E)**の関係を示す指標です。しかし、この関係は以下のように複雑です:
(1) 収益の増加がPERを引き下げる
過去のデータによれば、企業の収益(E)は長期的に増加する傾向があります。つまり、株価(P)が横ばいでも収益が増加すれば、PERは自然と低下します。
- 例:
2020年、S&P 500指数が3,500だった時よりも、現在指数が6,000を超えた状況でPERが低い理由は、収益が大幅に増加したためです。
(2) 経済成長がPERを高める
歴史的に、経済成長が続く中で、PERが上昇するケースが多いとされています。特に、企業収益が平均以上で、金融政策が緩和的な場合には、PERの低下が起きにくい傾向があります。
4. PERだけでは市場の未来を予測できない理由
データトレックリサーチの創設者、ニック・コラス氏はこう述べています:
「PERだけでは十分ではありません。誰もが計算機を持っています。市場では、計算だけでは優位性は得られません。」
市場の短期的な動向は、PERなどのバリュエーション指標だけで判断することは難しいのです。重要なのは、収益成長や市場心理といった他の要因との組み合わせです。
5. 投資家にとってのアプローチ
PERが高い市場環境では、次のような戦略を取ることが重要です。
(1) 長期的な視点を持つ
短期的なPERの変動に一喜一憂せず、企業の収益成長や事業展開を見据えた長期投資を重視しましょう。
(2) セクターや個別銘柄に注目
PERが高くても収益成長が見込まれるセクター(例:AIやクリーンエネルギー)や、堅実な収益を上げ続ける個別銘柄に注目することが重要です。
(3) 分散投資を活用
PERの高さに伴う市場リスクを抑えるため、地域やセクター、資産クラスを分散したポートフォリオを構築しましょう。
6. 結論:PERに過度に依存しない投資判断を
PERは投資判断における重要な指標の一つですが、それだけで市場の未来を正確に予測することはできません。企業収益や市場環境、投資家心理などの要因を総合的に考慮し、バランスの取れた投資戦略を採用することが成功への鍵です。